前回の記事(デンマークEVシフトと、Bolt社の統合モビリティ企業への推進)では、BoltがViggoとTaxi 4×27という「質」と「量」を同時に押さえる二段構えの提携により、デンマークの有料配車サービス市場へ一気に参入したことを紹介しました。
今回は、2014年に参入し2017年に一度は撤退したものの、2024年に再参入し、現在大きな勢力となっているUberについての物語を紹介します。
2014年11月、Uberはコペンハーゲンでデンマーク市場に参入しました。当初は一般ドライバーが自家用車で乗客を運ぶという、既存のタクシー業界の常識を覆すビジネスモデルでした。当時Uberの地域統括責任者は、各国の運送関連法の枠内で運営できるよう当局と調整を進めたと説明していました。
しかし、市場参入は順風満帆ではありませんでした。デンマークの交通当局(Trafikstyrelsen)は、サービス開始からわずか数時間後にUberを警察に通報し、デンマークタクシー協議会(Dansk Taxi Råd)も即座に関係当局への申し立てを表明しました。この「参入初日からの摩擦」が、その後3年近く続く法廷闘争の始まりとなりました。
2015年10月時点でデンマーク国内のUberドライバーは約290人に達し、首都圏の配車の15%を占めるまでに拡大しました。しかし同年12月、警察は最初のドライバーに対する起訴に踏み切り、Uber社自体もタクシー法違反への加担で立件されました。
2016年6月、コペンハーゲン地方裁判所はUberドライバー数名に2,000〜6,000クローネ(当時 3万円〜10.5万円)の罰金判決を下し、Uberの営業モデルが「違法なタクシー営業」に相当することが司法上明確になりました。同年12月には検察当局がタクシー法違反への加担でUber社を正式に訴追する方針を発表しています。
撤退の決定打となったのは、座席センサーとタクシーメーターの搭載を義務付ける新タクシー法案でした。Uberはこの法案を「誤った方向への規制」と批判し、2017年3月28日、同法の施行に合わせて2017年4月18日正午をもってデンマークでのサービスを終了すると発表しました。撤退時点でUberは同国に約2,000人のドライバーと30万人超の利用者を抱えていましたが、最終的に法人としてタクシー法違反で3万クローネ(当時 51万円)の罰金支払いに同意し、訴追は取り下げられています。
デンマークにおける有償旅客輸送規制は、2018年制定のタクシー事業法(Taxiloven)によってさらに整理されており、この規制環境がUber不在の7年間を規定する土台となりました。
7年間の空白を経て、2024年8月、Uberはコペンハーゲンのタクシー会社Drivrとの提携を発表しました。今回のスキームは2014年当時とは根本的に異なるものでした。かつての「一般ドライバーによる私有車マッチング」モデルではなく、Uberはアプリのプラットフォームのみを提供し、実際の配車・運行・法令遵守(タクシーメーター、座席センサーなど)はDrivrが担う仕組みへと転換しました。Drivrのボー・スヴァーネ最高責任者は、「Uberの持つソフトウェア基盤と数百万人規模のユーザー、そして我々のコペンハーゲンの知見という、両方の強みを組み合わせた」と提携の狙いを説明しています。
2025年1月、実際にUberアプリからのデンマーク国内配車が再開され、開始からわずか数週間で350人の新規ドライバーがDrivrパートナーとして登録するなど、需要の高さが示されました。この時点でのサービス提供エリアはコペンハーゲン首都圏に限定されていました。
Drivr提携からわずか数か月後の2025年5月、UberはデンマークでDantaxiの買収を発表し、市場拡大を一気に加速させました。Dantaxiは投資会社Tritonから2018年に売却されていた同国最大のタクシー会社で、この買収によりUberは98自治体中75自治体、3,500人のドライバー、1,900台の車両というネットワークをアプリ上で獲得しました。
Drivr提携とDantaxi買収の最大の違いは、「提携」か「所有」かという点です。Drivrとの関係はあくまで業務提携でしたが、DantaxiについてはUberが同社の所有権そのものを取得しました。運賃はデンマークのタクシー規制に準拠して算出され、アプリ上で乗車前に表示される仕組みが維持されており、2014年のような私有車マッチングモデルの再導入ではないことが強調されています。
Dantaxiは1937年設立され、デンマーク全国でタクシー事業を展開しているデンマーク最大のタクシー会社です。現在の総車両数1,900台のうち、1,007台(53%)がEVタクシーになっています。
1937年、コペンハーゲン近郊リュングビューで7人の個人タクシー事業者が設立した組織がDantaxiの起源です。当時の名称はLyngby Taxaで、市内の小さな屋根裏部屋を拠点に、わずか十数台の車両で営業を始めました。
その後、周辺地域の同業組合との合併が段階的に進みます。Lyngby TaxaはHolte Taxaと合併してLyngby-Holte Taxaとなり、さらにSkodsborg Taxaなど近隣の組合が次々と加わりました。1974年にはLyngby-Holte Taxiへと改称し、1982年にはVirumのKongevejenに本社を移転、この地が約38年間の拠点となりました。1990年代にはTaxa Nordsjælland(旧Fællescentralen)が別系統として設立され、これが後の合併の一方の軸となります。
2000年、Nord TaxiとLyngby-Holte Taxiが統合してTaxiNordが誕生し、車両300台規模の組織となりました。2003年にはTaxiNordとTaxa Nordsjællandが合併し、車両500台規模に拡大、その後4x48 TaxiNordへと改称しています。
一方、「Dantaxi」の名称自体は2008年6月、Codan TaxiとTaxamotorの合併によって誕生しました。Taxamotorはデンマークで最も古いタクシー事業者名の一つで、その起源は1908年に遡ります。2017年1月、この2つの系譜が最終的に統合し、DantaxiとTaxiNordが合併して現在の「Dantaxi 4x48」が誕生、車両1,600台超を持つデンマーク最大のタクシー事業者となりました。同社は運送事業者(ハウラー)が所有する組合型企業として、地方の中小タクシー会社を次々と吸収していく形で成長を続けました。
2018年10月、投資会社Tritonが運用するファンドがDantaxi 4x48の買収契約を締結し、同年12月に買収を完了しました。買収当時のDantaxi 4x48は車両1,600台超を抱え、2017年には売上高約16億デンマーククローネ(当時 約272億〜275億円)、乗車回数約700万回を記録する市場のリーダー的存在でした。
Triton傘下でDantaxiは単なるタクシー会社から「モビリティ企業」への転換を進めます。2020年にはEVシフトを本格化させ、テスラ車10台を導入したのを皮切りに、コロナ対応策の実施、複数の新規都市への展開などを行いました。
2022年には交通事業者HB-Careを買収してモビリティ企業への転換を印象付け、2023年には充電事業者E.ONと共同で北欧最大級のタクシー充電ハブ「Danhub」を開設、同年12月にはEV車両数が600台を突破しています。2023年秋には38年間拠点としてきたVirumからBagsværdの新本社へ移転し、デンマーク最大のタクシー本部となりました。
HB-Care:障がい者・高齢者・特別支援が必要な児童向けの特別輸送サービスを提供する事業者。
2025年5月、UberがTritonからDantaxiを買収した際、買収対象外となり、現在はTritonの投資先として単独運営。
2025年5月、UberはTritonからDantaxi(正式には持株会社Greenfleet Holding A/S)を買収したと発表しました。財務アドバイザーはBofA Securitiesが務め、買収額は非公表とされています。この取引は、同年1月にコペンハーゲンでタクシー会社Drivrと提携して再上陸を果たしたUberが、デンマーク全国への展開を一気に加速させる次のステップとして位置づけられました。
EVタクシーの車種は会社が選定しておらず、各ドライバーが個別に選択しています。そのため複数のモデルが導入されています。


画像引用元:Dantaxi 公式サイト
Mercedes-Benz
EQE
サイズ:4,946 mm × 1,961 mm × 1,510 mm
航続距離:660 km
バッテリー容量:90.6 kWh
EQS
サイズ:5,216 mm × 1,926 mm × 1,512 mm
航続距離:770 km
バッテリー容量:107.8 kWh
Volkswagen
ID.4
サイズ:4,584 mm × 1,852 mm × 1,631 mm
航続距離:550 km
バッテリー容量:77 kWh
Tesla
Model Y
サイズ:4,751 mm × 1,921 mm × 1,624 mm
航続距離:533 km
バッテリー容量:75 kWh
Model 3
サイズ:4,720 mm × 1,848 mm × 1,442 mm
航続距離:660 km
バッテリー容量:75 kWh
課題:ドライバーは利用可能な公共急速充電器を探すために、1日あたり最大1~2時間を費やしていました。都市部の普通充電器では、1日200~400kmを走行するタクシーの運行に対応できていませんでした。
対策:E.ONとのパートナーシップにより、コペンハーゲンに北欧最大級のタクシー向け充電ハブ「DanHub」を設立しました。この充電ハブでは1日最大400台のEVタクシーの充電が可能であり、ドライバーは休憩中に充電可能です。最大300kWの超急速充電に対応し、15~20分での満充電が可能となっています。
E.ON:2000年設立。ドイツに本社を置く欧州のエネルギー企業であり、電力・ガスの供給、スマートグリッドの構築、そしてエネルギー転換や電動化に向けたソリューション分野で事業を展開。
課題:所属する多くのドライバーは独立したDantaxiのパートナーです。EVの初期コストやバッテリー寿命への不安があり、自身の収益への影響を懸念していました。
対策:パートナー向けに研修を実施し、財務コンサルティングも提供しました。EVタクシーの購入価格は高くても、エネルギーコスト(EVとディーゼル車の比較)やメンテナンス費用の削減により、長期的にはEVの方が収益性が高いことをデータで示すなど、パートナーのEV移行を支援しています。
Uberのデンマークでの軌跡は、規制の厳しい市場で有料配車サービス企業がとるべき戦略転換を示す好例です。2014年当時のUberは「規制を変えさせる」というアプローチを取り、私有車ドライバーによる直接マッチングモデルをそのまま持ち込みましたが、この手法はデンマークの厳格なタクシー法との衝突を招き、最終的に全面撤退に追い込まれました。
対照的に2024年以降のアプローチは「既存の規制・既存の事業者と組む」という方向に大きく転換しています。Drivrとの提携ではプラットフォームと現地運行主体を分離し、Dantaxi買収では既存の免許・車両・ドライバー基盤を丸ごと取り込むことで、規制コンプライアンスを維持したまま急速な事業拡大を実現しました。これは、同時期にデンマーク市場でViggoの買収とTaxi 4×27との提携を組み合わせて「質」と「量」を同時に確保したBoltの戦略とも共通しており、規制市場における配車プラットフォーム企業の典型的な拡大パターンといえます。
アークエル株式会社では、タクシーのEV移行に向けて
移行シミュレーション
EV車両・充電器導入
電気工事
補助金支援
充電最適化
まで、包括的なサポートを提供し、導入から運用まで一貫してご支援します。
特に、第一交通産業社には、充電器メーカーや普通充電器/急速充電器を問わない統合的な充電情報管理を提供し、2年以上の運用実績があります。
100拠点を超える営業所におけるEVタクシーのエネルギー料金管理がExcelへの手入力などで属人化し、営業所ごとに精度が異なり、本社での管理はかなりの手間になっていました。
OCPPに準拠した普通充電器/急速充電器だけに限らず、ECHONET Liteや充電器メーカーの独自仕様にも対応可能なベンダーフリーを「AAKEL eFleet」で実現し、「充電器ごと」に「EVタクシーごと」に充電量(kWh)を把握することが可能となります。
また、各営業所が契約している電気料金メニューを踏まえて「各営業所ごと」に充電単価(円/kWh)を設定することも可能です。
この充電量(kWh)と充電単価(円/kWh)を組み合わせて、正確なEVエネルギー料金算出することが「AAKEL eFleet」で可能となります。この仕組みにより、EV移行前の車両のガソリン代と比較することが容易となり、
事前のEV移行シミュレーションからどのくらい差があるのか
実際にはどのくらいのエネルギー料金が削減されているのか
などの把握も容易となります。
さらに、次のEVを導入する拠点の検討への活用も可能と想定しています。
同じ月間走行距離kmでも、エネルギー料金が低くなる拠点へのEV導入
エネルギー料金が低くなる電気料金メニューエリアへのEV集中導入
「AAKEL eFleet」は、バス・タクシー・トラック・社有車・営業車などの法人向け基礎充電において、多様な運用ニーズやEV導入・運用に関するさまざまなお困りごとに対応しています。