「照明をLEDに換えた」「空調の設定温度を見直した」「こまめに電源を切るよう社内で徹底した」──こうした省エネの取り組みを地道に続けてきたにもかかわらず、電気料金の請求書を見て「あれ、全然安くなっていない…」と感じたことはないでしょうか。
実は今、多くの中小製造業で同じ悩みが起きています。「使用量は確かに減っているのに、コストが下がらない」。その原因は、企業努力の外側にある 「エネルギー単価そのものの高騰」 にあります。本記事では、なぜ省エネだけではコスト削減に限界があるのか、その構造的な背景を整理します。
なお本記事は、全5回シリーズの第1回です。「なぜコストが下がらないのか」(第1回)から、見落としがちな盲点(第2回)、省エネ診断による現状把握(第3回)、補助金の活用(第4回)、実際の削減事例(第5回)へと、“コスト削減の次の一手”を具体的にたどっていきます。まずは現状を正しく知ることが、その出発点になります。
まずは、産業用の電気料金がどれほど変化したのかを見てみましょう。

図1:高圧電力 平均単価の推移(2020年〜2026年)
新電力ネットの公表データによると、高圧電力の平均単価は2020年頃と比較して大幅に上昇しています。2023年1月には約27.49円/kWhまで上昇し、2020年以前の水準と比較するとおよそ2倍近くにまで膨らみました。その後は燃料費の落ち着きとともにやや下がったものの、2022年以前の水準には戻り切っていません。いわゆる 「高止まり」 の状態が続いています。
つまり、仮に使用電力量を10%削減できたとしても、単価が1.5倍になっていれば、トータルの電気代はむしろ増えてしまう計算になります。「省エネ=コスト削減」というシンプルな等式が、もはや成り立たなくなっているのです。
見落とされがちなのが 「再生可能エネルギー発電促進賦課金(再エネ賦課金)」 の存在です。再エネ賦課金とは、再生可能エネルギーの固定価格買取制度(FIT)の費用を、電気を使うすべての人で負担する仕組みです。この単価は制度が始まった2012年度の0.22円/kWhから年々上昇し、2026年度には4.18円/kWhと過去最高を更新 しました。
電気料金が上がった理由として、多くの方がまず思い浮かべるのは「燃料費の高騰」でしょう。ロシア・ウクライナ情勢以降のLNG(液化天然ガス)や石炭の価格上昇は記憶に新しいところです。しかし、単価を押し上げている要因はそれだけではありません。

図2:再生可能エネルギー発電促進賦課金 単価の推移(2012〜2026年度)
たとえば、月間の電力使用量が50,000kWhの工場であれば、再エネ賦課金だけで月額約20万9,000円の負担になります。年間に換算すると約250万円です。2020年度(2.98円/kWh)と比較しても、年間で約70万円以上の負担増です。これは省エネ努力で生み出した削減分を、簡単に帳消しにしてしまう金額ではないでしょうか。
さらに2026年度からは、省エネ法に基づく制度改正なども予定されており、エネルギーを巡るコスト構造は、今後さらに複雑になっていくと見られています。
ここで誤解のないようにお伝えしたいのですが、「省エネに意味がない」と言いたいわけではありません。むしろ逆です。単価が上昇している今だからこそ、使用量を削減する省エネの取り組みは、コスト上昇の 「ブレーキ」 として非常に重要な役割を果たしています。
問題は、「省エネ=コスト削減のゴール」と考えてしまうことにあります。
LED化や空調管理といった、いわば"定番"の省エネ施策はすでにやり切ったという企業も多いでしょう。しかし実際には、まだ見えていないロスが工場の中に残っているケースが少なくありません。
たとえば、デマンド(最大需要電力)の管理が適切でないために、契約電力が必要以上に高く設定されてしまっているケースがあります。
【デマンド管理とは?】
電力会社との契約では、「毎月どれだけ電気を使ったか(使用電力量)」だけでなく、「30分間の平均使用電力の最大値(デマンド値)」をもとに基本料金が決まる仕組みになっています。そしてこの基本料金は、過去1年間で最も高かったデマンド値(=契約電力)に基づいて毎月請求され続けます。
つまり、たった一度でも電力使用のピークが跳ね上がると、その後12ヶ月間にわたって高い基本料金を払い続けることになるのです。
【具体例】
たとえば、ある夏の日に工場で以下が重なったとします。
複数の製造ラインが一斉に稼働開始
気温上昇でエアコンがフル稼働
昼休み明けに溶接機・プレス機なども同時に立ち上げ
この「たまたま重なった30分間」のデマンド値が1,000kWを記録してしまうと、その後の11ヶ月間、実際の使用電力が700kWで収まっていたとしても、1,000kWベースの基本料金を払い続けることになります。
【なぜ「管理できていない」と損をするのか】
デマンド管理の仕組みを知らずにいると、「なんとなく電気代が高い月がある」程度にしか感じられず、原因に気づけません。ピークを意図的に抑える(=デマンドコントロール)という発想自体がなければ、設備の稼働タイミングをずらすだけで削減できたはずのコストが、毎月垂れ流しになってしまいます。
同様に、設備の稼働スケジュールにムダがあったり、電力契約の料金メニュー自体が自社の使い方に合っていなかったりといったケースも、「見えにくいがゆえに放置されやすいロス」の典型です。
こうした「隠れたロス」は、日常の感覚だけではなかなか気づけません。エネルギー使用量のデータを計測・分析することで、初めて数字として見えてくるものです。
省エネの"次の一手"を考えるとき、大切なのは「電気の使用量を減らす」という視点だけでなく、「エネルギーコスト全体をどう見直すか」という、もう少し広い視点を持つことです。
具体的には、以下のようなアプローチが考えられます。
まず、電力契約・料金プランの見直し です。自社の電力使用パターンに合った契約メニューを選ぶだけで、基本料金を下げられることがあります。次に、運用ルールの整備 として、空調や照明、設備の使い方にルールを設け、現場に定着させることで、投資なしでも継続的な削減が期待できます。そして、設備更新の費用対効果の検証 です。老朽化した設備を高効率機器に入れ替える際、補助金を活用すれば初期投資を大幅に抑えられる場合があります。2026年度も省エネ補助金は継続されており、設備更新費用の1/3から1/2が補助される制度もあります。
重要なのは、これらを「単発の施策」ではなく、自社の状況に合わせて組み合わせ、継続的に運用していくことです。しかし、日々の業務を抱える中で、エネルギーの専門知識を持った人材を社内で確保するのは簡単ではありません。「調べる時間がない」「何から手をつけていいかわからない」というお声をよく耳にするのも、もっともなことだと思います。
いま電気料金が高止まりしている背景には、燃料費の変動、再エネ賦課金の上昇、制度改正といった構造的な要因があり、これらは一企業の努力だけでコントロールできるものではありません。
だからこそ、「省エネはやり切った」と感じている今こそ、エネルギーコスト全体を見つめ直すタイミングなのかもしれません。使用量のデータをきちんと把握し、契約や運用を見直し、必要に応じて設備更新と補助金活用を検討する。そうした「使い方全体の見直し」に踏み出すことが、次のコスト削減への第一歩になるはずです。
次回のブログでは、「やり切った」と思っている省エネに、実はまだ見えていない盲点があるというテーマで、もう少し深掘りしていきたいと思います。
エネルギーコスト削減、まずは現状把握から。
「省エネはやり切った。でもコストが下がらない」とお感じなら、エネルギーコスト全体を見直すタイミングかもしれません。
アークエル株式会社の「エネルギーコスト削減支援パッケージ」は、エネルギーデータの計測・省エネ診断から、改善施策の立案・費用対効果試算・補助金の調査、運用現場への定着支援まで、最大1年間、専門コンサルタントが伴走します。電力契約の見直しや運用改善といった“今すぐできること”から、必要に応じた設備更新まで、御社の状況に合わせて無理のないコスト削減をご提案します。
無料相談を受け付けています。お問い合わせフォームから「エネルギーコストを削減したい」を選び、お気軽にご相談ください。
再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2026年度以降の買取価格等と2026年度の賦課金単価を設定します|経済産業省
再生可能エネルギーのFIT制度・FIP制度における2025年度以降の買取価格等と2025年度の賦課金単価を設定します|経済産業省
第1回:なぜコストが下がらないのか?(本記事)
第2回:「やり切った」省エネに、まだ見えていない盲点があります
第3回:省エネ診断で工場の「隠れたロス」を見つける方法
第4回:省エネ診断にも使える補助金、知らないと損する最新情報
第5回:診断から始めて、コストを削減した製造業の事例(近日公開)