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ドイツV2G制度の転換点:「エネルギー産業法」の改正と「蓄電・充電ポイントの市場統合」で何が変わったのか

2026/10/9

EV Blog

目次

2026年10月、ドイツのV2G(Vehicle-to-Grid)制度が大きく動きました。

2025年11月の「エネルギー産業法(EnWG)」の改正では、V2Gで系統へ戻された電力について、系統利用料の負担を軽減する方向性が示されました。

さらに2026年10月1日には、ドイツ連邦ネットワーク庁(Bundesnetzagentur:BNetzA)が「蓄電・充電ポイントの市場統合(MiSpeL)」の最終決定を正式に採択しています。これまで制度上の扱いが難しかったEVの双方向充電ポイントを、定置型蓄電池に近い形で電力市場へ組み込むためのルールが整備されたことで、ドイツのV2Gは実証から商用化へ向けた次の段階に入りました。

本ブログでは、ドイツのV2Gが抱えてきた制度上の課題から、「エネルギー産業法」の改正、「蓄電・充電ポイントの市場統合」による具体的な変更点、今後の課題、日本への示唆までを整理します。

1. 従来のドイツV2G制度にはどのような課題があったのか

V2Gを行うほど、コスト面で不利になる可能性

従来のドイツでは、EVが系統から電力を充電し、その電力をいったん系統へ戻した後に再び充電すると、同じ蓄電サイクルに関係する電力に対して系統利用料が重複してかかる可能性がありました。

系統の安定化に貢献するためにEVへの充電と系統への放電を繰り返しても、その分だけコスト負担が増えれば、V2Gを事業として成立させることは難しくなります。

EVを「動く蓄電池」として活用する技術が存在していても、電力制度の側がその利用を想定した仕組みになっていなければ、経済性を確保することはできません。

再エネ電力と系統電力の「混合利用」にも制約

もう一つの課題が、太陽光発電などの再生可能エネルギー由来の電力と、系統から購入した電力を同じ蓄電池に充電する場合の扱いです。

従来の「排他オプション(Ausschließlichkeitsoption)」では、EEG支援(※1)を維持するためには、原則として再生可能エネルギー由来の電力だけを蓄電する必要がありました。

そのため、系統からの電力を同じ蓄電池に混在して充電すると、蓄電後の再生可能エネルギー由来の電力について、EEG支援の対象から外れる可能性がありました。

※1  EEG支援:ドイツの「再生可能エネルギー法(Erneuerbare-Energien-Gesetz:EEG)」に基づき、太陽光・風力・バイオマスなどで発電した電力に対して支払われる公的な支援制度。
主に「固定価格の買取」と「市場販売への上乗せ」の2方式。

固定価格の買取:系統運用者へ電力を渡し、法定価格で買い取ってもらう。対象は100kW以下の小規模設備。

市場販売への上乗せ:発電した電力を市場で販売し、一定の基準額と市場価値との差額を補填してもらう。対象は直接販売を選ぶ設備や大規模設備。

さらに、EVの充電と放電を行う双方向充電ポイントは、この従来方式の対象外となっていました。こうした制度上の制約から、以下のような運用を行なう場合にも、電力の由来や流れを正確に把握し、系統利用料やEEG支援などを適切に精算する仕組みが必要でした。

  • 電力価格が安い時間帯に系統から充電し、価格が高い時間帯に放電する

  • 太陽光発電の余剰電力を蓄え、需要や電力価格に応じて後から利用・売電する

  • 太陽光発電と系統電力を組み合わせて蓄電池を運用する

技術面では実現できる運用でも、電力がどこから来て、どの程度蓄電され、どの電力が系統へ戻されたのかを制度上処理できなければ、実際の市場取引にはつなげにくい状況でした。

2. 「エネルギー産業法改正」でV2Gの経済性が改善

2025年11月、V2Gの系統利用料負担を軽減する方向へ

こうした状況を変えるきっかけとなったのが、2025年11月の「エネルギー産業法」の改正です。改正では、V2Gによって一時的に蓄えられ、その後に系統へ戻された電力について、蓄電池に準じた系統利用料の軽減を適用する方向が明確になりました。

ドイツ政府も、その後の議会資料で、直近の「エネルギー産業法」の改正によってV2Gが系統利用料の免除対象となり、V2Gを活用するための経済的なインセンティブが生まれたと説明しています。

ただし、EVから系統へ放電した電力がすべて無条件で免除されるわけではありません。例えば、EVが系統から電力を充電し、その後その電力を系統へ戻した場合、系統から充電して一時的に蓄えた後、系統へ戻したと認められる電力量を精算上で相殺します。その分について系統利用料などの負担を軽減する考え方です。

これによって、EVへの充電と系統への放電を単純な「電力消費」として扱うのではなく、蓄電池と同じように、系統へ電力を一時的に預けて戻す仕組みとして扱えるようになります。電力価格が安い時間帯に充電し、需要が高い時間帯や電力価格が高い時間帯に放電するなど、EVを蓄電設備として活用するビジネスモデルを構築しやすくなりました。

系統利用料の免除には期限がある

一方、ドイツの「エネルギー産業法」第118条第6項に基づく系統利用料の免除は、恒久的な制度ではありません。

現行制度では、原則として2029年8月4日までに稼働を開始する対象設備について、稼働開始から20年間、系統利用料の免除を受けられる仕組みとなっています。

V2G事業を検討する際には、設備の稼働時期が制度上の期限に間に合うか、また系統利用料の免除を事業計画へどのように織り込むかが重要になります。

さらにドイツでは、AgNeS(※2)による系統利用料金の改革も進められています。現在の免除制度だけでなく、将来的な系統利用料金制度の変更も視野に入れる必要があります。

※2 AgNeS:ドイツの電力網料金(託送料金)を抜本的に見直すために、ドイツ連邦ネットワーク庁が進めている改革手続きや決議プロセス。

3. 「蓄電・充電ポイントの市場統合」でV2Gの「計測・精算ルール」を具体化

2026年10月1日に最終決定

「エネルギー産業法」の改正によってV2Gの系統利用料負担を軽減する方向が示される一方、実際にどの電力を対象として精算するのかという具体的なルールも必要になります。

そこでドイツ連邦ネットワーク庁が策定を進めてきたのが、「蓄電・充電ポイントの市場統合(MiSpeL)」です。決定手続きは2025年7月31日に開始され、同年9月18日に規則案が公開されました。その後、2025年10月24日まで意見募集が行われ、2026年8月5日には最終決定に向けた作業版が公表されています。

そして2026年10月1日、ドイツ連邦ネットワーク庁が「蓄電・充電ポイントの市場統合」の最終決定を正式に採択しました。

最終決定は、以下の3つの文書で構成されています。

  • 決定本文(Tenor)・理由書:制度の適用条件、事業者に必要な手続き、発効・移行に関するルール

  • 別紙1:区分オプション(Abgrenzungsoption):電力の区分方法、計測方法、計算式、具体的なユースケース

  • 別紙2:定額オプション(Pauschaloption):定額方式の適用条件、計算方法、具体的なユースケース

最終決定の決定番号は「618-25-02」です。決定本文では、2026年10月1日を公表日として規則の効力が生じること、また2026年10月7日にドイツ連邦ネットワーク庁の官報へ掲載することが示されています。

「エネルギー産業法」がV2Gの系統利用料負担を軽減するための法的な土台だとすれば、「蓄電・充電ポイントの市場統合」は、実際の電力の流れをどう計測し、どの電力を対象として精算するのかを定める実務ルールにあたります。

4. 「蓄電・充電ポイントの市場統合」が用意した2つの選択肢

「蓄電・充電ポイントの市場統合」では、電力をできるだけ正確に区分して精算する「区分オプション」と、計測・精算を簡素化した「定額オプション」の2つの方式が設けられました。

区分オプション:電力量を精密に区分

区分オプションでは、15分単位で計測した電力量を、ドイツ連邦ネットワーク庁が定めた計算式に基づいて按分します。

これによって、再生可能エネルギー由来の支援対象電力と、系統から充電した後に系統へ戻した電力を区分して精算できます。

最終決定では、区分オプションはすべての利用者が選択できる方式とされています。

原則として、正確な電力量の区分・計測を行うために2台のメーターを使用します。一方、太陽光発電設備を持たない蓄電池や双方向充電ポイントなど、一部の構成では1台のメーターで対応することも可能です。

定額オプション:計測・精算を簡素化

定額オプションは、30kWp以下の太陽光発電設備を設置している家庭や小規模事業者などを主な対象とした、より簡易な方式です。

原則として、1台の15分値メーターで利用できるため、蓄電池や双方向充電ポイント専用の追加メーターを設置する必要がありません。その代わり、太陽光発電設備の設備容量1kWpにつき年間500kWhまでを支援対象電力として扱う上限が設けられています。

ただし、定額オプションにはもう一つ注意点があります。欧州委員会による国家補助法上の承認が必要とされているため、2026年10月1日に「蓄電・充電ポイントの市場統合」の最終決定が採択されたことだけをもって、直ちに定額オプションを利用できるわけではありません。

出典:「エネルギー産業法」の内容をもとにアークエル株式会社が作成

5.2026年10月1日からの運用

制度は発効、実装はこれから

「蓄電・充電ポイントの市場統合」は、2026年10月1日に最終決定が採択・公表され、法的効力も発生しました。

ただし、これによってドイツ全土でV2Gの制度が一斉に自動運用されるわけではありません。全国共通の実務対応については、2027年9月30日までを実装・移行期間とし、移行期間終了後の2027年10月以降から標準的な運用が始まることが想定されています。

また、ドイツ連邦ネットワーク庁は2025年に実施した意見募集で寄せられた意見を踏まえ、2026年8月の作業版から最終決定にかけて制度を見直しました。

主な変更点は以下のとおりです。

  • 精算期間の月次化

  • EEG支援を受けていない再生可能エネルギー設備への適用拡大

  • 発電設備を持たない蓄電池などへの適用拡大

  • 特殊なケースに対応する計算式の簡素化

  • 不適切な賦課金の軽減を防ぐための計算式の見直し

特に重要なのが、蓄電池だけでなく、EVの双方向充電ポイントについても、可能な限り同等に扱う方針が明確になったことです。

V2Gを蓄電池と同じように制度上扱うためのルールが整ったことで、これまで制度の対象外だったEVの双方向充電ポイントも、電力市場との接続を前提とした事業設計がしやすくなりました。

事業者からは課題も指摘

最終決定に至るまでの意見募集では、BMW・Ford・Elli・E.ON・Octopus Energy・The Mobility House・Enpalなどから、制度設計に対するさまざまな意見が寄せられました。

特に、定額オプションの適用範囲や閾値、対象範囲の中間領域、追加の計測設備にかかるコストなどについては、V2Gの事業性を損なう可能性が指摘されています。

制度としての枠組みは整ったものの、実際のサービス提供に必要な計測設備やシステム対応まで含めると、事業者側にはまだ対応すべき課題が残っています。

6.V2Gの普及に向けて残る3つの課題

「蓄電・充電ポイントの市場統合」によってV2Gを電力市場に組み込むための制度は整備されました。一方で、V2Gを社会に広く普及させるためには、まだいくつかの課題が残されています。

① スマートメーターの普及

「蓄電・充電ポイントの市場統合」では、電力の流れを15分単位で計測することが重要になります。

しかし、ドイツではスマートメーターの普及がまだ十分とはいえません。2025年末時点で、スマートメーターが設置されていたのは全計量地点の5.5%、約310万台にとどまり、義務設置対象に限っても23.3%でした。

2026年6月末には全計量地点に占める割合が5.9%まで上昇しましたが、V2Gを大規模に普及させるためには、今後さらにスマートメーターの導入を進める必要があります。

② 計測・精算にかかるコスト

もう一つの課題が、計測・精算にかかるコストです。

区分オプションでは、原則として2台のメーターを使用し、15分単位で電力量を計測・処理する必要があります。

メーターの設置費用だけでなく、データ連携や請求・精算システムの構築なども必要になるため、事業者側の負担が大きくなる可能性があります。

家庭向けには、より簡便な定額オプションが用意されていますが、30kWp以下の太陽光発電設備を前提とするなど適用条件があります。また、欧州委員会による承認も必要です。

③ V2Gは自動的に系統へ貢献するわけではない

もう一つ重要なのが、V2Gを導入しただけでEVが自動的に系統安定化へ貢献するわけではないという点です。

「蓄電・充電ポイントの市場統合」は、EVの充放電を電力市場に参加させるための計測・精算ルールを整備する制度です。EVが「いつ充電し、いつ放電するのか」までを一律に決める制度ではありません。

例えば、多数のEVが同じ時間帯に一斉に充電すれば、配電網の一部に電力需要が集中する可能性があります。

逆に、多数のEVが同時に放電すれば、局所的に逆潮流が集中する可能性もあります。V2Gを系統運用に活用するには、「蓄電・充電ポイントの市場統合」による計測・精算ルールに加え、エネルギー産業法第14a条に基づく制御、動的な電力料金、配電網側の運用ルールなどを組み合わせることが重要になります。

ドイツでは今後、V2Gを「利用できる制度」から、実際に系統運用へ組み込む段階へ進められるかが焦点になります。

7.今後、V2G事業はどう動くのか

事業者は具体的なサービス設計へ

今回の最終決定によって、OEM・充電器メーカー・アグリゲーター・小売電気事業者・計量事業者などは、V2Gサービスの計測・精算方法を具体的に設計できる段階に入りました。

特に区分オプションについては、移行期間中であっても、系統運用者や計量地点運用者との合意が得られれば先行して導入できるため、地域限定のサービスやEVでの実証から商用サービスへ移行する余地があります。

一方、家庭向けV2Gを大規模に展開するうえで重要となる定額オプションは、欧州委員会による国家補助法上の承認を待っている段階です。そのため、現時点で具体的な開始時期や対象地域を一律に判断することはできません。

今後V2G事業を展開する場合は、「蓄電・充電ポイントの市場統合」の最終決定日だけを見るのではなく、以下の5点を確認する必要があります。

  • 地域の系統運用者・計量地点運用者がいつ対応できるか

  • 定額オプションに関する国家補助上の承認がいつ得られるか

  • スマートメーターをどの程度導入できるか

  • EVと充電器の相互運用性を確保できるか

  • 電力市場へ参加するための契約や仕組みを整備できるか

「蓄電・充電ポイントの市場統合」によって制度上のルールが定まった一方、実際にV2Gサービスを全国展開するには、系統運用者・計量事業者・電力会社・充電器メーカー・OEMなど、それぞれの対応が必要になります。

日本への示唆:V2G普及には「制度・計測・市場」の一体設計が必要

ドイツの今回の制度整備から得られる重要な示唆は、V2Gの商用化には、系統利用料の二重負担を解消するだけでは足りないということです。実際にV2Gを普及させるには、以下の仕組みを一体で設計する必要があります。

  • 電力がどこから来たのかを判定する計測方法

  • 再生可能エネルギーへの支援制度

  • 賦課金や系統利用料の精算方法

  • EV・充電器・電力事業者間のデータ連携

また、ドイツが「正確な計測・精算を重視する区分オプション」と「計測・精算を簡素化する定額オプション」を用意した点も、日本にとって参考になります。

業務用EVのように比較的大規模な設備と、一般家庭のEVでは、求められる計測精度や許容できるコストが異なります。そのため、日本でV2G制度を設計する場合も、利用者や設備規模に応じて複数の精算方式を用意する考え方は検討に値します。

一方で、制度を細かく設計しすぎると、事業者のシステム対応コストが増え、利用者にとっても分かりにくい仕組みになってしまいます。

日本でドイツの事例を参考にする際には、計測精度だけでなく、「実装コスト」「既存スマートメーターの活用」「アグリゲーターによるデータ管理」「複数車両をまとめた一括精算」なども含め、現場で運用しやすい制度にすることが重要です。

ドイツでは、V2Gを「技術として実現できるか」という段階から、「制度・計測・精算・市場をどう組み合わせて事業として成立させるか」という段階へ進み始めています。

今後の焦点は、今回整備された制度を使って、実際にどれだけV2Gサービスが立ち上がるかです。

日本にとっても、車両や充電器の技術だけでなく、電力制度・計測・精算・市場参加までを一体で設計することが、V2G普及に向けた重要な論点になります。

【弊社事例】 日本における社用車へのEV導入事例

アークエル株式会社では、社用車のEV移行に向けて

  • 移行シミュレーション

  • EV車両・充電器導入

  • 電気工事

  • 補助金支援

  • 充電最適化

まで、包括的なサポートを提供し、導入から運用まで一貫してご支援します。

岡山ガス株式会社は、今後のEVビジネスへの展開を見据え、2023年に三菱オートリース株式会社およびアークエル株式会社との3社による協業プロジェクトを開始しました。

【岡山ガス × 三菱オートリース × アークエルテクノロジーズ EV導入ワンストップサービス事業を開始 - 3社の強みを活かした協業事業 - 】

この3社協業事業の中で、岡山ガス株式会社では社用車のEV化にも取り組んでいます。

課題:「日々の事業運用に支障の出ないようなEVスマート充電」と「特定の社用車は充電の開始と停止を自由に実施するが充電時間や充電量kWhは個別に把握したい」という2つのニーズの同時達成

社用車の中には使用目的によって、充電時間帯を一律に設定できない車両も存在します。そうした車両では、自由な充電時間の確保と充電管理の両立が求められるため、EVスマート充電の対象車両とは異なる充電制御が必要となりました。

解決策:充電器ごとに充電制御の内容を分割。「AAKEL eFleet」と「AAKEL eFleet Billing」を充電器ごとに設定

  • 「日々の事業運用に支障の出ないようなEVスマート充電」は「AAKEL eFleet」で提供

  • 「特定の社用車は充電の開始と停止を自由に実施するが充電時間や充電量kWhは個別に把握したい」は「AAKEL eFleet Billing」で提供

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【「AAKEL eFleet ver.1.1 」リリース ~eFleet Billing の提供開始〜 EV充電料金を計算し、サービス事業者に提供】

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【トナミ運輸 相模支店にEVスマート充電・運行管理システム「AAKEL eFleet」を提供開始】

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