前々回のEVブログで取り上げた航空会社 Air New Zealandの共同宣言に賛同したのは、電力会社 Mercury NZ Limitedと金融機関 Westpac NZです。この2社は共同宣言をきっかけにEV移行を加速させました。
【Air New Zealandの挑戦:ニュージーランドから世界へ発信する、航空会社のEV移行】
前回のEVブログでは、「エネルギーを供給する側」から広がるEV普及モデルとして、電力会社 Mercury NZ LimitedのEV移行の取り組みについて紹介しました。
【電力会社 Mercury NZ LimitedのEV移行】
Air New Zealandが起点となった脱炭素の連鎖が、電力会社と金融機関へと広がっていった様子は、ニュージーランドにおける企業間連携によるEV普及モデルの好例といえます。今回は金融機関 Westpacがどのような視点でEV移行を進めたのかを紹介します。
2016年、ニュージーランド最古の銀行であるWestpacは、301台の社用車のうち3台をBMW i3(BEV)に切り替え、EV移行を開始しました。Westpacのコマーシャルサービス部門は、「どの部署にEVが向いているか」「どの車種が業務にフィットするか」を数字と事実に基づいて意思決定する、銀行らしいアプローチでEV移行を進めていきました。
オーストラリアの大手金融グループWestpac Banking Corporationの子会社で、ニュージーランドの大手4大銀行の一つ。他3社は、ANZ Bank New Zealand、ASB Bank、Bank of New Zealand。
1861年にオタゴ・ゴールドラッシュ時代にBank of New South Walesとして開業したのが起源で、1982年にCommercial Bank of Australiaとの合併を経て「Westpac」に改名。
個人向けのリテールバンキングから、法人・アグリビジネス・機関投資家向けバンキングまで幅広く展開し、ニュージーランド政府の取引銀行としての役割も担当。
住宅ローンが総貸出の66%を占める、リテール中心の事業構造。
2016年10月、Westpacは、前々回と前回のEVブログで紹介したAir New ZealandとMercuryが主導する「30% EV Committers Pledge」に参加し、「2019年末までに社用車の30%をEV化する」ことを公式に発表しました。
30社以上が参加した「30% EV Committers Pledge」において、Westpacは単なる参加企業ではなく、発起メンバーの一社として名を連ねました。Air New Zealandが「空港と営業車」、Mercuryが「エネルギー会社としての電力」をEV化のポイントにしたのに対し、Westpacは「国内300以上の拠点網」という銀行特有の強みを生かした展開を描きました。
2018年5月、Westpacは301台の社用車のうち65台をEVに移行し、目標に向けた第一段階を完了したことを発表しました。
コマーシャルサービス部門の詳細な分析の結果、選ばれた車種はHyundai IONIQでした。BEVとPHEVの両方をニュージーランドでラインナップする希少な車両だったためです。
残りの32台は既存車両のリース期限が切れるタイミングで順次入れ替えとなり、オークランド近郊のAlbanyから南島南端のInvercargillまで、全国の支店とオフィスに配備されました。
IONIQ BEV / PHEV 共通項目
全長:4,470 mm
全幅:1,820 mm
全高:1,450 mm
IONIQ BEV / PHEV 比較項目

出典:HYUNDAI HP
最終的にWestpacのフリート担当ディレクター Rob Halsall氏は、購入ではなくリースを選択しました。車種はHyundai IONIQを中心に採用し、試験導入期には少数のBMW車両も組み込みながら、「EVが自社の文化に合うかどうか」「フリート管理の方法がどう変わるか」を慎重に検証しながら移行を進めていきました。
リース契約は36〜45ヶ月に設定され、既存車両のリース満了タイミングを活用してEVへの切り替えをまとめて進める戦略が採用されました。
車両の導入と並行して、Westpacは全国65拠点に普通充電器を設置しました。
既存の公共充電インフラを補完する形で整備された会社用充電インフラは、単なる利便性向上ではなく、CO2排出量削減効果を定量化するための布石でもありました。
Westpacの分析チームは、BEV 1台あたり年間約4トン、PHEV 1台あたり年間約1トンのCO2排出量削減効果があると算出し、100台規模のEV(BEV+PHEV)導入によって年間約200トンのCO2削減が見込まれると試算しました。銀行らしい緻密な数値化により、EV移行の投資対効果を社内外に説明可能な数字として整理したことが、Westpacのアプローチの特徴です。
2018年5月には正式な発表イベントを開催し、新型EVを社員に披露しました。この社内イベントが、単なる「業務車両の入れ替え」から「全社的な取り組み」に格上げする重要な転換点となりました。

出典:Westpac HP
Westpacは「2019年末までに30%電動化」を目標としていましたが、宣言通り2019年11月に達成しました。
これはAir New Zealand・Mercuryと並び、ニュージーランドの企業EVプレッジ参加企業の中でも早期達成を実現した事例の一つとなりました。
Westpacの真価は、初期目標を達成した後の「継続的な引き上げ」にあります。2021年度のディスクロージャー・ステートメントでは、Westpacが「Scope 1・2・3排出量を2019年比30%削減する」という全社目標の達成度合いを35%と報告しており、車両のEV化がその主要な貢献要素として明記されています。
さらに同社はニュージーランド国内で唯一、KiwiRailの3.5億ニュージーランドドル規模のグリーンローンに参加しており、車両のEV化を含む脱炭素戦略全体の一貫性を示しています。
グリーンローン:低排出フェリー購入向け、世界初のクライメート・ボンド・スタンダード認証付き船舶ローン。
2022年、Westpacは新たに「2025年9月30日までに、社用車の100%をEVまたはPHEVにする」という目標を設定しました。これまでの30%目標を大幅に上回るコミットメントです。
2022年の目標設定当時のEV化率は51%であり、目標達成には残り約半分の社用車を3年弱で置き換える必要がありました。
Westpacの社内文書は、この目標推進の担当者としてHead of Property and ProcurementのJustin Brochocki氏の名を明記しており、同文書では、EV化推進によって「スタッフのBEVとPHEVへの理解が深まり、運用コストが減少した」という成果とともに、「電力需要の増加」という新たな課題や、継続的な検証が必要な論点も記録されています。
2025年末までの結果として、EV化率は98.5%となっています。
これは、支店のない地域の顧客をサポートする「モバイル・コミュニティ・バンキング」プログラムを2025年5月に試験導入し、この用途にディーゼル車3台を新たに配備したことが、EV化率が100%に達していない背景です。
WestpacのEV戦略にはもう一つの重要な視点があります。
リース期間を終えた社用車EVは、順次中古車市場に放出される仕組みになっています。
新車のEVは価格が高く、個人が手を出しにくいというニュージーランド特有の課題がある中、Westpacのような大企業が数百台規模でEVをリースし、リース期限後に中古車市場へ供出することは、低価格帯の中古EVの供給量を増やし、一般消費者のEV普及を後押しする間接的な効果を持ちます。
これはAir New Zealandの営業車ブランディングやMercuryのEVサブスクとは異なる、「Fleet to Market」という独自の役割を担当するためでした。
Air New Zealandが「空港・営業車」、Mercuryが「発電・エネルギー」という自社の本業に紐づけてEV化を説明し進めていったことに対し、Westpacには自社の本業と直結する物理的なインフラがありませんでした。
それでもWestpacがEV移行を進めた理由は明確です。
銀行は「数字」で信頼を作る業態であり、排出量 4トン/台、削減 200トン、充電器 65基、電動化率 100%という緻密な定量開示こそが、Westpacにとって説得力ある確かな実績の示し方でした。
Air New Zealandの「空港と営業車」、Mercuryの「発電・エネルギー」、そしてWestpacの「拠点網と数字」。
業種も強みもまったく異なる3社が、それぞれ自社の本業に根ざした形でEV移行を進めていきました。
しかし3社に共通するのは、単独で脱炭素に取り組むのではなく、「30% EV Committers Pledge」という枠組みを通じて他社を巻き込み、業界の枠を超えてニュージーランド全体のEV普及を後押ししてきた点です。
2016年にわずか約2,000台だった国内のEV登録台数は、その後の数年で数万台規模へと拡大し、この動きの起点には、航空・エネルギー・金融という異なる業界のリーダー企業による連携がありました。
一国の規模だからこそ実現できた、企業間連携によるEV移行のスピードと広がりは、他の国や地域がEV普及を進めるうえでも参考になるモデルとなります。
アークエル株式会社では、社用車のEV移行に向けて
移行シミュレーション
EV車両・充電器導入
電気工事
補助金支援
充電最適化
まで、包括的なサポートを提供し、導入から運用まで一貫してご支援します。
岡山ガス株式会社は、今後のEVビジネスへの展開を見据え、2023年に三菱オートリース株式会社およびアークエル株式会社との3社による協業プロジェクトを開始しました。
【岡山ガス × 三菱オートリース × アークエルテクノロジーズ EV導入ワンストップサービス事業を開始 - 3社の強みを活かした協業事業 - 】
この3社協業事業の中で、岡山ガス株式会社では社用車のEV化にも取り組んでいます。
社用車の中には使用目的によって、充電時間帯を一律に設定できない車両も存在します。そうした車両では、自由な充電時間の確保と充電管理の両立が求められるため、EVスマート充電の対象車両とは異なる充電制御が必要となりました。
「日々の事業運用に支障の出ないようなEVスマート充電」は「AAKEL eFleet」で提供
「特定の社用車は充電の開始と停止を自由に実施するが充電時間や充電量kWhは個別に把握したい」は「AAKEL eFleet Billing」で提供
充電器ごとに設定機能を変えて提供することで、1拠点内の複数充電器であっても、異なる制御と管理をすることが可能となります。
この「AAKEL eFleet Billing」は公共充電(一般的な目的地充電や経路充電)のサービスではないため、
従業員への福利厚生としての充電サービス提供
既存顧客訪問者への充電サービス提供
既存取引先訪問者への充電サービス提供
このような細かいニーズにも対応することが可能です。
【「AAKEL eFleet ver.1.1 」リリース ~eFleet Billing の提供開始〜 EV充電料金を計算し、サービス事業者に提供】
また、車両データを活用したスマート充電で、物流現場の脱炭素化と運用コスト最適化を支援するため、トナミ運輸株式会社の相模支店にAAKEL eFleetの提供を開始しました。
【トナミ運輸 相模支店にEVスマート充電・運行管理システム「AAKEL eFleet」を提供開始】
この取り組みでは、軽EVの動態および充電データを蓄積・活用し、電力市場価格や施設の電力制約を考慮した自動充電制御によって、EV車両全体の運用効率化と電力コスト最適化を目指していきます。
「AAKEL eFleet」は、バス・タクシー・トラック・社用車・営業車などの法人向け基礎充電において、多様な運用ニーズやEV導入・運用に関するさまざまなお困りごとに対応しています。
▶ サービス詳細【AAKEL eFleet】
また、アークエル株式会社では、エネルギー会社、自動車関連会社、公共交通事業者、その他の法人に対して、EV関連の新規事業構築支援をご提供してまいりました。
このトータルソリューションとコンサルティングにより、バス・タクシー・トラックなどの商用車から社用車まで、EVに関連する幅広い法人のニーズにお応えしています。
さらに、アークエル株式会社では電力分野に関する豊富な知見を有しており、さまざまな課題に対して最適なソリューションを提案することが可能です。こうした知見と海外ネットワークを活かし、モビリティ領域における調査・コンサルティングサービスを提供しています。
自社の製品・技術が海外のEV市場でどのような事業機会を持つのか知りたい
社内向けに簡潔で分かりやすいEV調査レポートを作成してほしい
日本におけるEV関連の新規事業開発を検討したい
アークエルが提供するEVスマート充電サービス「AAKEL eFleet」は、海外製EV(乗用車/商用車)や充電器(ABB社)にも対応するベンダーフリーのソリューションです。API連携や車載器の活用により、メーカーや車種を問わず車両を一元管理できるほか、OCPP・ECHONET Lite・各充電器メーカーの独自仕様にも対応しています。これにより、普通充電器・急速充電器・V2Xなど異なるメーカーや方式の設備が同一拠点に混在しても、支障なく運用できる統合的な充電器管理を実現します。

EV導入やEVスマート充電やEV関連事業に関するお悩み・ご相談がありましたら、どうぞお気軽にお問い合わせください。