Carbon Neutral Blog
前回の記事では、2027年のCDP回答はスケジュールが大幅に前倒しになり、データの整理や社内レビューを受付開始前に終えておくことが重要だとお伝えしました。
こうした準備の多くは調達先を含めたサプライチェーン全体のデータが前提になるため、結局は「サプライヤーからどうデータを集め、どう動いてもらうか」が土台になります。
「サプライヤーにScope3のデータ提供や削減目標の設定をお願いしたいが、本当に協力してもらえるのか、進めた先に効果があるのか自信が持てない」——
こうした声は、まさにこのタイミングで対応を迫られている担当者の方からよく聞かれます。
実際、サプライヤーから十分な質・量のデータが得られない、収集したデータを具体的な戦略に活用できていない、社内の経営層や他部署の理解・連携が不足している、といった課題は、業種を問わず多くの企業が直面しているとされています。
本記事では、業種の異なる海外2社、KPMGインターナショナル(英国)とダウ・ケミカル(米国)の実践例から、サプライヤーエンゲージメントで得られる効果と進め方を紹介します。
両社とも最初から完璧な体制だったわけではなく、限られたリソースの中で段階的に仕組みを整えてきた点が共通しています。
この2社に共通するのは、「データを集めること」自体をゴールにせず、集めたデータを社内の体制づくりや協働プロジェクトに結びつけている点です。
取り組みを進めた結果として、具体的には次のような効果が生まれています。
全サプライヤーに同時に働きかけようとすると社内リソースを消耗してしまいがちですが、インパクトの大きい一部のサプライヤーから着手すれば、限られた工数でも成果を出しやすくなります。
ダウ・ケミカル(米国)では、排出量の70%をScope3が占め、そのうち半分がサプライチェーン由来とされています。自社の排出量の大部分が社外にあるという構造は、工場を持つ製造業であれば多くの企業にとっても他人事ではありません。
だからこそ、どのデータから優先的に集めるかが重要になります。
両社が実際にサプライヤーから収集・活用しているデータ項目は、下記のように多岐にわたります。
Scope1・2・3排出量/按分排出量
ネットゼロ目標
SBT設定状況
第三者保証の有無
再生可能エネルギー利用割合
物流改善や業務プロセス改善などの協働提案
ただし、いきなり全項目を揃えようとする必要はありません。
まずは削減優先度の判断に直結する排出量と按分排出量から収集を始め、目標設定状況や協働提案といった項目は、社内の運用が回り始めてから段階的に追加していく、という順序の方が現実的に進めやすくなります。
サプライヤーエンゲージメントの成果は、次の3フェーズを経て段階的に現れます。効果はフェーズ1の時点ではまだ見えにくく、フェーズ2・3と進むにつれて数字として表れてくるイメージです。

フェーズ1・・・最も時間がかかるのは、算定範囲の線引きとデータ収集ルートの整備です。
サプライヤーごとに協力度合いに差があるため、最初から全サプライヤーの完全なデータを求めると停滞しやすくなります。
「部分的な開示からでも着手できる」という前提を社内外で共有しておくことが、プロジェクトを止めずに進める実務上のポイントです。
回答期間が短縮される2027年以降は、このフェーズを前年のうちに終えられるかどうかが、スケジュール全体の余裕を左右します。
フェーズ2・・・サプライヤー自身のリソースやノウハウ不足が壁になりやすく、算定テンプレートの提供や勉強会の開催など発注側からの伴走支援が必要になります。
社内でも調達部門とサステナビリティ部門の役割分担を先に決めておくと、特定の担当者への負荷集中を防げます。
フェーズ3・・・削減の取り組みを一過性で終わらせず、継続的にトラッキングする運用に落とし込めるかが問われます。
誰が・どの頻度で確認するかというモニタリング体制は、検証を受ける際の裏付け資料としても活用できます。
KPMGインターナショナル(英国)は、自らも多くの顧客から開示・削減を求められる立場にあり、サステナビリティ部門と調達部門の共同体制、調達担当者向けトレーニング、「持続可能な調達ワーキンググループ」の設置などにより、社内の理解・巻き込みそのものを効果として積み上げています。
ダウ・ケミカル(米国)は、サプライヤーとの連携が経営課題に直結しているため、Scope3・水・森林へのインパクトの大きさで重点サプライヤーを選定し、調達サステナビリティチームがデータ収集とCDPへの回答要請を担うことで、バイヤーは「サプライヤー管理」に専念できる体制を構築しています。
業種にかかわらず共通しているのは、この3つの考え方です。
取り扱う製品やサプライチェーンの構造が異なっていても、この3つの考え方を軸にすれば、自社に合ったやり方へ落とし込めることが両社の事例からうかがえます。
こうした取り組みに着手せずにいると、いざサプライヤーにデータ提供や削減目標の設定を求めても十分な協力が得られず、収集の仕組みを一から整えることになりかねません。サプライヤーとの関係構築には時間がかかるため、早い段階から少しずつ関係を築いておくことが、結果的に自社の対応コストを抑えることにつながります。

サプライヤーエンゲージメントの効果は、データを集めた瞬間に現れるものではなく、社内体制の整備、サプライヤーとの協働、そして進捗のトラッキングという段階を経て、少しずつ数字として表れてきます。
2027年に向けてサプライヤーデータの精度を高めたい企業は、今回紹介した3フェーズのどこに自社が位置しているのかを確認するところから、取り組みを始めてみてはいかがでしょうか。
Scope3の算定・開示から、サプライヤーへの働きかけ方の設計まで、2027年に向けた進め方に迷われている場合は、お気軽にアークエル株式会社までご相談ください。
これから排出量算定に取り組む企業に向けて、社内向けセミナーやヒアリングを通じた現状整理から、自社ツール「AAKEL eCarbon」を使ったScope1・2・3の算定・可視化までを支援いたします。
算定に必要なデータが揃っていない場合でも、必要なデータの特定や収集方法の構築段階からサポートするため、「何から手をつければよいか分からない」という状態からでも着手いただけます。
CDP認定ソリューションプロバイダー(ASP)として、CDP質問書への回答準備から次年度に向けた改善計画まで、脱炭素・ESG・エネルギー分野の専門資格を持つコンサルタントが年間を通じて伴走支援いたします。
回答方針書の作成や回答文の添削、CDPポータルの操作説明に加え、スコア確認後の減点ポイントの整理・改善提案まで一貫してサポートします。
2027年サイクルはスケジュールが大幅に前倒しになります。
算定の土台づくりから回答対応まで、お気軽にご相談ください。