省エネ診断というと、「専門的な話で中身がよくわからない」「結局どんな提案をされるのか想像できない」という声をよく聞きます。実際の診断現場では、勘や経験則だけでなく、温度計・電力データ・計算式を使って「削減できる金額」を数字で示しています。
今回から始まる連載「省エネ診断員の目」の第1回では、ビル全体のエネルギー消費の約3割を占める「空調」にフォーカスし、診断員が実際に何を見て、どう計算しているのかを、具体的な実例とともに解説します。
オフィスビル、事務所の消費エネルギーのうち、空調は約28%を占めるとされています。この数字はデマンド管理と並んで、省エネ診断が最初に着目する領域です。診断員はまず「今すぐお金をかけずにできる運用改善」と「投資を伴う設備更新」の両方の切り口で、削減余地を数字に落とし込んでいきます。
現場でもっとも即効性のある改善が設定温度の見直しです。環境省が推奨する室温は冷房28℃ですが、実際の現場では23〜24℃に設定されているケースが多く見られます。
省エネ診断員は、年間の電力使用量データや機器仕様から空調でどれだけの電力が使われているかを推定します。ある事務所の実例では、次のような計算になりました。
項目 | 数値 |
|---|---|
年間電力使用量 | 155,046kWh |
空調を使っていない月の使用量(基準値) | 約7,906kWh/月 |
推定・年間空調使用電力量 | 60,174kWh(全体の約39%) |
設定温度を2℃緩和した場合の削減率 | 20% |
年間削減電力量 | 12,035kWh |
電力単価 | 18.1円/kWh |
年間削減金額 | 約22万円 |
「たった2℃の見直し」がここまでの金額につながる、という点を数字で示せることが、この提案の説得力になっています。
設定温度と並んで診断士が必ず確認するのが、室外機まわりの環境です。室外機は排熱を前面に吐き出しますが、前方にスペースがないと吐いた熱風を再び吸い込んでしまいます。これを「ショートサーキット」と呼び、吸込温度が1℃上がるごとに冷暖房効率が約2〜3%低下するとされています。改善策は、障害物の撤去や風向ガイドの設置など、比較的低コストで対応できるものが中心です。
同様に見落とされがちなのが、フィルターや室外機熱交換器の汚れです。フィルターが詰まると風量が落ち、設定温度に届かないまま圧縮機がフル稼働を続けるため、消費電力が増加します。熱交換器を清掃するだけで消費電力が5〜15%程度改善するケースもあり、コストをかけずに効果を出せる代表的な提案です。
運用改善だけでは対応しきれないのが、老朽化した機器です。特に冷媒が「R22」の機器は、すでに製造が終了しており修理部品もほぼ枯渇しているため、故障時に修理できないリスクを抱えています。製造から12〜13年以上経過した機器は、部品保有期限(製造後9年が目安)を過ぎていることも多く、積極的な更新対象になります。
実際の更新試算では、次のような差が見られました。
項目 | 更新前(R22機) | 更新後(R32機) |
|---|---|---|
消費電力(銘板値) | 3.05kW | 1.45kW |
省エネ計算プログラム算出(年間) | 2,713kWh | 708kWh |
年間削減電力量は2,005kWh、削減金額は単価10.45円で計算すると1台あたり約2万1,000円/年です。1台あたりの金額は大きくなくても、建物全体で数十台規模になれば年間数十万〜百万円超の削減になります。加えてR22機には「修理不能リスク」があるため、コスト削減以外の観点でも更新を後押しする材料になります。
設定温度の緩和やショートサーキット対策・フィルター清掃は、コストをほぼかけずに、今日からでも着手できる改善です。一方、機器更新は、初期投資と工事期間を要します。まず運用改善で足元の無駄を減らしながら、投資回収年数が明確な設備更新を並行して提案する、という順序で進めるのが基本です。
空調の省エネは、「今すぐできる運用改善」と「数字の裏付けを持った設備更新」の両輪で進めることで、着実に成果につながります。
もし「設定温度は見直しているのに効果が実感できない」「古い機器をいつ更新すべきかわからない」という場合は、専門家による診断を受けるタイミングです。特にR22・R410A冷媒の利用がある場合は、省エネ計算プログラムなど公的なツールを使った定量評価ができる事業者に相談することで、補助金申請の際にも説得力のある根拠を伴った提案を受けられます。
アークエル株式会社は、現地調査データと省エネ計算プログラムに基づいた定量的な診断・提案を行っています。「うちの空調に削減余地はあるのか知りたい」という段階でも構いませんので、お問い合わせフォームからお気軽にご相談ください。